埼玉K医院住宅部分の増改築(埼玉県) 

■診療所併用住宅のデザイン事例

 以下の2事例はいずれも1981年の新耐震基準施行前に建設された診療所併用住宅です。これらRC造で規模が大きめの診療所併用住宅に関しては、住み手の高齢化や後継世帯との同居など、ライフステージの変化にともなう相談が増えています。結論としては、解体費用が大きいこと、新築されるまでの診療をどうするか?といった問題から、既存の躯体を活かしてリノベーションや増築するケースが多いです。
 

 
 上記の傾向は、SDGsの観点で見ても前向きな方向性であると同時に、周辺地域が開発され、高層化されて、かつての姿を失いつつある場合などは、地域の歴史を「つなぐ」貴重な景観資源にもなります。診療所併用住宅の事例では、ここでの「A.地域をつなぐ」を含め、「つなぐ」をキーワードとする3つのコンセプトを提示ます。
 

 
 診療所併用住宅において重要なのは、住み替えの選択肢がとりにくいことです。子世代が継承する場合でも、親世帯は住み続け、子世帯は近隣に別の住処を見つけるか、規模に余裕がある場合などは同居するケースが見受けられます。
 診療所を経営する場合、他に移る選択肢は難しいので、住宅部分は様々なライフステージに対応できる必要があります。特にバリアフリーは重要な視点で、新築時から通路に車椅子の自走を想定した勾配や幅員を確保したり、1階を診療所とする場合は、新築時からホームエレベーターを設置したり、後の増築を選択した場合は、設置場所の選定や、増築後に建蔽率・容積率をクリアできるかなど、様々に検証しておく必要があります。
 

 
 築年数が経過した建築の活用には、現行法との整合や既存建築の保全状態など、建築技術面からの検証が必要となります。また、既存建築が現行法以前の基準で設計されていて既存不適格となった場合でも構造を切り離したり、規模を調整することで増築することは可能です。「B.建築をつなぐ」ため、合法性と安全性を確保した計画づくりが大切になります。

事例1.埼玉K医院住宅部分の増改築


写真上:増改築後の外観
■計画の概要
 診療所併用住宅のリノベーション事例です。開院当時は術後の経過観察もあって、入院可能だったそうですが、医療の進歩もあって必要が無くなり、かつての病室が倉庫のようになっていました。そこで、こうした診療所の不要部分を住宅にリノベーションして二世帯化すると同時に、2階で暮らす親世帯のバリアフリー化に対応して『エレベーター棟』と子世帯の居室を補う『はなれ』を増築しました。
 
 
写真:玄関の土間スロープ(左)と屋外アプローチのスロープ(右)
   自走の車椅子に対応。造作家具の手前がベンチで天井から手摺で吊っている

写真上:医院の休憩スペースと応接を兼ねた空間

写真上:かつての入院病床を改装した子世帯のダイニング・キッチン

写真上:浴室・洗面室。ドアの先がバステラス

写真上:子世帯のリビングとチャイルドスペースを兼ねたはなれの内観

写真上:はなれの夜景。左側に収納とロフトがあってサッシは引き込める
 
写真:子世帯のダイニング・キッチンに外付けされたサンルーム(左)
   親世帯のキッチン(右)

事例2.横浜A医院のバリアフリー化/ツナグ・モノリス


写真上:増築後の外観
■計画の概要
 診療所併用住宅の増築事例です。1階が診療所のため、上階で暮らす住み手の高齢化に合わせて『エレベーター棟』を増築しました。オブジェではなく、『エレベーター棟』としての存在意義を持つ建築装置なので、過剰な形態操作は控え、スレート下見板張りとすることで石柱のような表情をつくり、非建築的なスケール感を強調しました。
 こうすることで『エレベーター棟』と母屋の隙間に、既存建築だけでは想像できない新しい坪庭やベランダの風景を創りました。
 
 
写真:外観のアップ(左)とエレベーター棟のアプローチ(右) 

写真上:1階診療所の待合から見たエレベーター棟。植栽に石を配した  
 
写真:エレベーター1階ホール(左)と様相を変えた2階のホール(右)
 
写真:2階ホールからベランダを見る(左)ベランダ通路の様子(左)

写真上:2階ベランダの全景。母屋の食堂に接続する

写真上:母屋の食堂からベランダを見る

写真上:同時期に改装した母屋のキッチン
    既存のタイルに合わせて緑のタイルを採用した

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